ヒストリックハウス名:Chawton House Library(チュートンハウス ライブラリー)

所在地域:イギリス、グロスターシャー

ジェーン・オーステンの兄の家

✴ダリアの訪問・一言感想✴

ハウスのエントランスタワーは、なんとなく“つぎはぎ”な印象。建物が建てられたのは、

1580年代で、築400年超。これまで、なんどとなく補修、改築が行われていたんだなあ・・・

ハウスのエントランスに着くと・・・大きな木の扉は閉まっていました。「御用の方は、ブザーをおしてください」と書いてあり、押すと、ロックが外れるかすかな音がしたので、ドアを押して入りました。

奥におじいさんが1人座っているので、奥へ歩いていくと、どこからか若い女性が出てきて、チケットを販売してくれました。

シーンとしているハウスの中、まずグレートホールに入ります。チューダーの雰囲気。ヒモをほどくとベッドとしても使える大きなソファは、便利そうです。

紋章が配された暖炉。

ダイニングルーム。

ジェーン・オーステンの兄のエドワード・ナイト。(養子にはいり、オーステンから名前がナイトに変わる)

紋章が美しいステンドグラス。

ジェーンは、ここから外を見ていたかもしれない・・・

女性作家の作品を中心としたライブラリー、女性の権利問題を取り扱った男性の著作もある。いまでは入手困難な18世紀の著作も。

カフェになっているコートヤード。

ガーデンには、ハーブゾーンがあり。目的によって、このようになっています。

訪れたのは、9月初旬でまだ、夏の花が残っていました。

ガーデンの鉄の門扉。とても美しい。

ハウスを南から見ると、エリザベス時代のゲーブル(三角屋根)がよくわかります。ジェーンは、執筆時期に、日常的にここを訪れていて、どこを見ても歩いても、ジェーンが、そこにいるように、思えました。地味だけれども、人を包み込む暖かさが、どこからか感じられるハウスでした。

✴ダリアのインサイト✴

~ジェーンは、自分を解き放つ~

牧師の家に生まれたジェーン・オーステン(1775-1817)は、兄5人、姉1人のあとに生まれ、さらに弟もいました。物心がついたときには、数部屋しかない狭い家で、家族が寝起きし、食事をするという毎日でした。ジェーンは、仲のよい姉、カッサンドラといつも同じベッドルームで心穏やかに過ごしていたものの、一人になりたい、もっと伸び伸びと暮らしたいと、いう思いはいつも心の底にあるのでした。

ジェーンの兄の1人、エドワード(1767-1852)は、富裕で息子がいないナイト家の養子となり、のちにナイト家の家督とハウスを継承し、エドワード・ナイトとなります。1809年にエドワードは、母と妹2人(カッサンドラとジェーン)をよびよせ、ナイト家の領地内にあるコテージに3人は、住むことになりました。このコテージは、チュートンハウスから、散歩道で徒歩5分でした。

このころ、エドワードは妻に先立たれていたこともあり、カッサンドラとジェーンは、日常的にチュートンを訪れる日々になりました。チュートンには、エドワードの子供たちがいて、なかでもジェーンの18歳年下のファニーを、ジェーン姉妹はとてもかわいがり、ジェーンは、「ファニーは、人生の喜び」と書いているほどです。

手狭な環境で育ったジェーンにとって、チュートンは、心身ともに伸び伸びできる、魂レベルでリラックスできる場所でした。優しい兄エドワードは、嫌な顔をすることは一度もなく、いつも快く迎えてくれ、使用人たちも、エドワードの実の妹ということで、とても感じよく、丁寧に接してくれるのです。

「ヘンリー3世は、ここに22回も来たのだわ・・・」ジェーンは、チュートンの古い記録を読むのが好きでした。ここにいる自分が、なにかとてつもなく特別な存在のように思えてくるのです。

30代後半になっても結婚をせず、小説家を目指しているジェーンは、その当時の世の中では、“世捨て人”のような存在として見られていました。が、チュートンで古い記録を読んでいると、そんなことは忘れて、とてつもなく広い世界が、時間を超えて、自分の周りに無限に広がっているように感じられ、自分を解き放つ感覚とともに、新たな創作アイデアが沸き起こってくるのです。

ハウスのガーデンに出て、どこまでも続く林の中を歩き、このうえない静寂の中にいると、ここにいる自分が本当の自分だと確信でき、心の底から自信がわいてくるのです。

ジェーンは、チュートンにくるようになってから、創作のスピードが上がり、1811年に

「マンスフィールド・パーク」、「分別と多感」、1813年には繰り返し映画・ドラマ化される「高慢と偏見」、そして1815年には「エマ」を書いています。

「分別と多感」は、まさにチュートン・ハウスと自分たちの住んでいたコテージが、そのまま小説の中で、活き活きと描写されているようです。

ジェーンが、チュートンで得た幸福感は、作品のすみずみで表現されています。チュートンは、ジェーンに計り知れない大きな力を与えていたのでした。

※史実に基づいた筆者の考察です。

ジェーンが住んでいたコテージ
ジェーンが執筆していたテーブル
ジェーン・オーステン

参考資料:「Chawton House Library」 Chawton House Library