ヒストリックハウス名:Mottisfont(モティスフォント)

所在地域:イギリス、ハンプシャー

ロマンティックな恋愛が育まれた

✴ダリアの訪問・一言感想✴

林をぬけると、ハウスの正面が現れました。中世風の石造りと、ジャコビアン風のレンガ造りがミックスされた独特のファサード。ハウスの前にある小さなノット・ガーデンが、ハウスを引き立て、こじんまりとした中にも風格のある美しさを醸し出しています。

あと20分程で始まるガーデンツアーに参加する前に、ウォールドガーデンを先に見ます。

ローズ・ガーデンがよく知られる庭、バラの季節ではありませんが、少し咲いていました。

ガーデンの歴史が壁にかかれているガーデナーハウス。バラのツルで、時代がつながれています。

ガーデンツアーの参加者は、私一人で、嬉しいプライベートツアーとなりました。

敷地内を流れる小川にかかる橋。まるで絵画のような風景です。小川は、領地内に流れるテスト川の支流。テスト川は、石灰層でろ過された透明できれいな水が流れていて、鱒やサーモンがたくさん獲れるそうです。

ガーデンツアーのあと、ハウスを見学。

ダイニングルームの暖炉、大理石に似せたパネル飾りの色合いがすばらしい。

ミュージックルーム、ここにあるようなドロップリーフテーブル、このように使うのですね。暖炉上の鏡のデザインが豪華。

ドローイングルーム、芸術家、思想家が集った部屋らしく、さまざまな絵画が飾られています。

世界的なモザイク画家、ボリス・アンレップの作品(後述、ダリアのインサイト参照)が、なにげなくドアの上に飾られている。(三位一体の象徴図)

モティスフォントは、温かみのある雰囲気が、庭でもハウスでも感じられました。それは、今現在あるこのハウスが、10人子供がいたナイナルツゲンファミリーによって改装され、そのあと、モード・ラッセルがインテリアや内装をさらに整えてきたからでしょう。

✴ダリアのインサイト

~モザイク画が、静かに語り続ける愛~

モティスフォントは、ヘンリー8世の教会破壊までは、オーガスティン派の教会で、カンタベリーからウィンチェスターに巡礼に向かう人々の中継休憩地点となっていました。ヘンリー8世により没収され、宮廷の重臣ウィリアム・サンディー(ヴァインの持ち主でもある、当サイト「The Vyne」参照)に与えられます。

そののち、サンディー家では、直系承継ではないものの、一族の子孫に継承されていきますが、1943年にサンディー子孫一族から売りにだされ、銀行家ギルバード・ラッセルが購入、妻のモード(1891-1982)と共に住みます。

モードは、ギルバートより16歳年下で、1942年にギルバートが亡くなってから、1982年に91歳で亡くなるまで、モティスフォントとロンドンを行き来していました。

ギルバードの死の前後から、モードは、17歳年下のイアン・フレミング(007シリーズの作者、1908-1964)の恋人で、イアンもモードをとても慕っていました。この恋愛の頃、モードは、50代前半、イアンは、30代中盤でした。イアンは、モティスフォントを頻繁に訪れ、モードと過ごします。イアンにとってモードは、芸術からゴシップまで幅広い分野のウィットに富む会話の相手であり、モティスフォントという素晴らしい環境の中で、日々の全てのパートナーでした。モードにとっては、イアンといると新しい人生を生きているような気がするのでした。

モードは、モザイク画家として世界的に有名なロシア人のボリス・アンレップ(1883-1969)とも、親しくしていました。ボリスは、ナショナル・ギャラリー、バンク・オブ・イングランド、ウェストミンスター大聖堂のモザイク画の作者として、よく知られる芸術家です。ボリスは、モードの心がイアンにあることが知りながらも、モードを深く愛していました。

ボリスは、モードから、モティスフォントのモザイク壁画を頼まれます。「ノット・ガーデンの奥に、秘密な感じの、遊び心のあるモザイクを作ってくれないかしら?見る人が、おやっ?て思うような・・・。アイデアは任せるわ。あなたのウィットを楽しみにしているわ」と。

しばらくロンドンに行って帰ってきたモードは、そのモザイク画をみて、思わず、声をあげます。そのモザイク画は、天使を描いていて、その天使は、モードにそっくりなのです。そして、その天使の表情は、このうえなく優しく微笑んでいて、モードが自分でも見た覚えがないような、美しい表情なのでした。

ノット・ガーデンの奥とは、ハウスの正面であり、ボリスの思い切った愛の告白、それも恒久的に残る・・・は、決してひっそりしたものでは、ありません。そのユーモアのある強気に、モードは微笑。ボリスは、しっかりとモードの心を掴んだのでした。

参考資料:「Mottisfont」 National Trust