ヒストリックハウス名:Belvoir Castle (ビーバーカースル)

所在地域:イギリス、レスターシャー

訪問:2019年10月27日

ビーバーカースルは、ハードンホール(当サイト「ハードンホール」をご参照下さい)の持ち主と同じマナーズ家のカントリーハウスです。ハードンよりもずっと規模が大きく、マナーズは、1703年に侯爵に叙爵されると、侯爵にふさわしいハウスとしてビーバーカースルを本拠地とし、以来ハードンホールは荒廃へと向かいました。

ビーバーは、当初、要塞として建設されましたが、イングランドでも指おりのカントリーハウス、カースル・ハワード(当サイト「カースル・ハワード」をご参照ください)で生まれ育ったエリザベス・ハワードが、ジョン・マナーズ(第五代ラットランド公爵)と1799年に結婚し、ビーバー・カースルは、優雅なカントリーハウスに大胆に姿を変えていくことになります。今回は、このエリザベス・マナーズのストーリーです。

ビーバーカースル全景(絵葉書)

Elizabeth Manners, 5th Duchess of Rutland

エリザベス・マナーズ、第5代ラットランド侯爵夫人(1780-1825)

エリザベスは、19歳のときに、ジョンと結婚しました。エリザベスは、カースル・ハワードを居城とする第5代カーライル伯爵の10人の子供の第6子で第5女でした。生まれたときから多くのきょうだいに囲まれて育ったエリザベスは、なかなかの勝気な女の子でした。乗馬が得意で、カースル・ハワードの領地内のすみずみまで、みずから馬に乗り駆け回り、熟知していました。父親が女子だから、という理由だけで、キツネ狩りに参加させてくれないのを、いつも不満に思っていました。

第5代ラットランド公爵、ジョン・マナーズとの結婚が決まった時、エリザベスはなにか、とてつもなく大きな未来が開けているように感じました。ジョンはエリザベスより2歳上、まだ21歳ですが、父親が最近亡くなり、もう侯爵位を継いでいるのです。ジョンは、温和な青年で、いつも「エリザベスの好きなようにしたらいいよ」といってほほ笑むのです。どこまでも広がる広大な領地をもつ侯爵家の当主であるジョンは、領民からは尊敬され、領地運営も順調です。・・・しかし、ラットランド公爵家の居城、ビーバー・カースルは、まるで中世の遺物そのものでした。もう19世紀になろうという1799年なのに、まるでヘンリー8世が建てたかのような、要塞そのものの外観、石がまだむきだしのままの多くの寒い部屋・・・。

この中世の城では、先代が召使いを魔女だと信じ込み、火刑に処した歴史もあり、暗鬱とした、まるで幽霊屋敷のような冷たい空気が漂っているのです。

エリザベスは、「私が、ビーバーをカースル・ハワードよりもエレガントなカントリーハウスに変えるわ!」と決意します。なにしろ、夫のジョンは、エリザベスのしたいようにしていいというのです。エリザベスは、気鋭の新進建築家、ジェームズ・ワイアットを呼び寄せ、

「エレガントなカントリーハウス」にするためのプランを頼みます。ワイアットは、いくつもの棟を増築し、そこにゴシック・リバイバルスタイルの金細工をふんだんに使ったドローイングルームや、ダイニングルームを配する提案をし、エリザベスはこの案をとても気に入り、すぐさま発注します。

しかし、これらの増築・改修には莫大な費用がかかり、夫のジョンは、費用を捻出するために、領地の中にある7つもの村を売却しました。ジョンは、エリザベスのためには、できるだけのことをしたいといつも思っており、また先祖代々引き継いできたビーバーを立派に変身させるのも、カントリーハウス全盛期のこの頃、やるべきこと、やらなければならぬこと、と思えたのです。

大規模な増築・改修には15年近くの月日が費やされ、1816年、もう少しで全て完成というそのとき、なんと火事がおき、改築増築したハウスの殆どすべてが、出来上がった部屋に飾っていたルーベンスやヴァン・ダイクなどの美術品も含めて、焼け落ちてしまいます。

エリザベスは、火事がおきたとき36歳、ほとんど放心状態になってしまいました。夫ジョンは再び、領地を売り、費用を捻出し、ビーバーはワイアットのオリジナルのプランで再建されます。しかし、エリザベスの心は、ビーバーから徐々に、まるで砂山が崩れるように、離れていくのでした。エリザベスは、ビーバーに滞在することが減り、ロンドンでの滞在を好むようになり、なにかと理由をつけてはビーバーに戻ってこないのでした。

エリザベスは、ジョージ4世の弟、フレデリック王子(1763-1827)に、夫ジョンにはない軽快な明るさを見出し、しかしそれは、軽率かつ無責任という言葉で言い換えることができるものでもありましたが、王室への興味もあり、親交を深めていきます。

生来、勝気で責任感の強いエリザベスは、ビーバー・カースルの改築だけでなく、領地運営にも関わり、やりがいはあるものの、時にその重圧感から、のがれたい、と思うのでした。そんなとき、フレデリックの軽々しい明るさや、「なるようになれば、いいじゃない?人生楽しもうよ!」というような態度が、エリザベスを救うのでした。

ビーバーは、火事のあと、再び建てられ、美しく甦りますが、エリザベスは45歳の若さで盲腸炎で、急死しました。

エリザベスが創ったエリザベス・サルーン(ハウス内撮影禁止のため絵葉書)Netflixドラマ「クラウン」でこの部屋が頻繁に映ります。

ビーバーカースルは、Netflixドラマ「クラウン」でウィンザー城の設定になっていて、頻繁に登場します。ウィンザー城内の部屋もビーバーの部屋で撮影されています。