ヒストリックハウス名:Audley End (オードリーエンド)

所在地域:イギリス、エセックス

訪問:2019年10月21日

Katherine Clayton キャサリン・クレイトン(1748-1807)

オードリーエンドは、ヘンリー8世から、忠臣トマス・オードリーに与えられて以来、

ハワード一族(のちにグリフィン一族)のハウスとして承継されてきました。(一時、チャールズ2世が別荘として所有)

キャサリン・クレイトン(1748-1807)は、18歳で、ジョン・グリフィン卿(1719-1797)と1766年に結婚。ジョンはこの時、すでに46歳でした。ジョンは、叔母のレディ・ポーツマスの遺言に基づきオードリーエンドを、4年前に相続し、広大な屋敷に46歳にして独身で住んでいました。ジョンは、実績のある軍人で、軍での功績から議員にも選出されていました。

ジョンの叔母、ポーツマス伯爵夫人エリザベス(1691-1762)は、その前のハウスの持ち主、第10代サフォーク伯爵ヘンリーの大叔父の曾孫という遠縁で、オードリーエンドの相続権は無いものの、親族の1人として、他の相続人から1751年に権利を買ったのでした。

ジョンは、特に希望しなかったものの、叔母からオードリーエンドを相続し、ハウスを時代にふさわしいものにしよう、という意欲が沸き立ちます。

キャサリンは、親に言われるがまま、ジョンと結婚、オードリーエンドにやってきました。結婚した当初、ハウスは、改築の最中で足場に包まれ、全容はわかりません。工事中の広大なハウスの片隅の部屋で、新婚生活が始まりました。しかし、あまり好奇心が強くなく、なにごとにも消極的な18歳のキャサリンは、工事に興味をもつこともなく、夫が毎日、改築に夢中になっているのを見ては、ただ、そんなものかと眺めているのでした。

しかし、4年後のある日、工事がほぼ終わり、ジョンに連れられて、新しくできたステートアパートメントをみて、キャサリンは息をのみます。王族を迎えることを目的に作られたステートアパートメントは、天井が高く、その天井には、見たこともない精巧な石膏飾りがつけられ、大きなガラスの窓からはどこまでも広がる整えられた風景庭園が見えます。(ケイパビリティ・ブラウンによる)絨毯やカーテンの贅沢な重厚さ、揃えられた家具の豪華さ、キャサリンがこれまで見たことのない、ジャコビアン調で統一された素晴らしい部屋がずっと続いているアパートメントなのです。

ジョンは、自分のテイストをはっきり持っていて、建築家や装飾家に任せきりにするのではなく、ジョンが“仕切って”新しい棟を造りあげたのでした。

キャサリンは、この新しい部屋の数々にすっかり魅了され、以降、ジョンと一緒に増築していく部屋の内装に、積極的に関わるようになりました。キャサリンは、自身が刺繍に自信があることもあり、刺繍をほどこした内装にこだわりました。カーテン、ソファ、椅子、カーペット、テーブルクロス、クッション、布地があるところには、刺繍ありと、いう感じで統一感のある美しい植物柄の刺繍パターンを考案していきます。

ジョンは、年の離れた若妻が、そうやって一生懸命、内装に取り組んでいることに、ほほえましさを感じつつも、自身は熱心に領地の買い増しを続け、絵画のコレクションを増やし続けます。ジョンは、自分が正統な後継者であることに誇りをもち、それを後世に伝えるべく、オードリーエンドを建てた初代サフォーク伯(12世紀)から先代までの肖像画をすべて発注し、結果としてハウスの中の壁は、肖像画で埋め尽くされることになります。

1797年にジョンは、78歳で死亡、キャサリンは、53歳でした。二人に子供はおらず、ハウスの増築改築・装飾に情熱を注いだ結婚生活でした。ジョンが65歳のときに、夢にまでみた男爵位をジョージ3世から与えられ、天にも昇る思いで喜び、ジョージ3世を迎えるべく、ハウスをさらに豪華な装飾にしました。が、ジョージ3世が精神の病を発病したため、計画されていた訪問プランは頓挫、来訪は、かないませんでした。

ジョンの死後、ポーツマス伯爵夫人エリザベスの最初の夫ヘンリーの子孫、リチャード・ネビル(1750-1825)が、相続人として、オードリーエンドを承継します。リチャードは、妻に先立たれた7人の子供のいる独身。すぐさま、7人の子供を連れて、オードリーエンドにやってきました。

リチャードは、キャサリンより2歳年下なだけで、同年代でした。ジョンとともにハウスを作り上げてきたキャサリンには、リチャードは、「どこからか、突然やってきた遠縁の男」に過ぎず、その粗野な所作や、洗練されていない言動の一つ一つに、腹が立つのでした。しかし、当主はリチャード。キャサリンは、ハウスに住む部屋を与えられていたものの、すでに男爵夫人のステイタスもありません。日々、ガーデンを散歩しては、ジョンと過ごした、華やかだった時代を懐かしみ、59歳で亡くなりました。キャサリンにとっては、オードリーエンドは、人生そのものだったのでした。

ガーデンの散歩道