ヒストリックハウス名:Hardwick ハードウィック

所在地域:イギリス、ダービーシャー

 Bess of Hardwick, Countess of Shrewsbury (1527-1608)

訪問:2019年7月5日、2019年10月25日

シュールズベリー伯爵夫人 ベス・オブ・ハードウィック

ハードウィック、ニューホールとオールドホール、そしてチャッツワースの3つの館を、自らの好みを100%反映し、建てたのは、シュールズベリー伯爵夫人、ベス・オブ・ハードウィック(以下ベス)です。チャッツワースを建てた、エリザベス・キャベンディッシュと同一人物です。ベスは、エリザベスの愛称、ラストネームは、再婚後変わっています。

ベスについては、後日、3部構成で書きますので、お楽しみに。

前回は、ハードウィック・ニューホールをご紹介しました。今回は、オールドホールをご紹介します。

ベスは、1527年に、今、オールドホールがある場所にあった、質素で小規模なマナーハウスで生まれました。ベスの父親は、ジェントリーといっても貧しい部類で、館も質素な造りです。修理も長年されておらず、雨が降れば、雨漏りがし、風が吹けば家全体が、揺れるような、心もとない造りでした。

そんな、粗末で古いどうしようもない館を、父の死後、ベスの1つ違いの兄ジェームズが、成年した際に相続します。

ベスは、ジェームズが存命中、実家のことを思い出すと、いつも、やるせない気持ちになっていました。ジェームズは悪い人ではないけれど、領地経営を軌道にのせることができず、借金を重ね続け、ジェームズはベスからも、膨大な借金をし続けました。そして、1581年に多額の借金を残して、ジェームズは55歳で死亡。ベスの実家は、借金取立人に没収されてしまいます。

ベスは、即座に取立人と交渉し、自分のジェームズへの借金の大部分と引き換えに、実家を取り戻します。こうして、廃屋同然の自分の実家を、ベスは正当な権利のもと、手に入れます。

廃屋同然の実家の前に立ち、ベスは、しばし幼い日の思い出に浸ります。倹約第一だったけれど、母親にはとてもかわいがられ、姉妹たちと、楽しく過ごし、使用人の仕事を手伝っていた毎日を。

しかし、思い出に浸る時間は、ほんの一瞬で、すぐに未来への情熱が沸き上がってくるのを、止めることができませんでした。私が生まれたこの土地にこそ、建てるべきものがある、と、ベスは強く、確信したのです。

ベスのビジョンは、明確でした。

いままでにない発想の館をつくる。いままでに、人々が見たこともない、そして経験したことがない感覚を味わえる、そんな斬新な館を造ろうと。

時間を無駄にせず、ベスは、実行します。そのころベスは、50代後半。全く疲れを知りません。

粗末な館の大部分は、取り壊しましたが、ベスの思い出が残る古い家のマントルピース(暖炉)と、壁の一部は残し、あえてテューダーの伝統的な、雰囲気をグランドフロア(日本の1階)のグレートホールでは、演出します。

そして、これから何がおこるのか?を期待させるような長い階段を3階(日本の4階まで)昇っていくと、3階(日本の4階)で、まず1つ目の大きな客間に導かれます。上階にもかかわらず、高い吹き抜け天井で、開放的な空間。壁面には、ぐるりと森の風景の石膏彫刻が施され、まるで天空に浮かぶ森の中にいるような錯覚に捉われます。

さらに、その森の壁から、南側の窓へ目を移すと、大きなガラス窓から、ダービーシャーの先の地平線まで、見渡せ、訪れた人々は、この絶景に、声もでないほど驚くのでした。この頃、高い建物は、教会の尖塔くらいです。また、ガラスはとても高価で、高いところからガラス窓越しに、風をうけることなく、景色を見渡すことは、非常に新しいことだったのです。

「さすが、ベス・・・」客人は、天空の森の部屋から見渡す、ダービーシャーの景色に圧倒され、ベスに畏敬の眼差しを向けるのでした。そうすると、ベスは、「こちらは、フォレスト・チェンバー、森にいるようなご気分を味わっていただきたくて。」と静かに言うのです。

フォレストチェンバーの石膏彫刻

そして、ベスに導かれて、進むと、さらに、広い客間に入ります。南と西、両方に

広い窓が設けられ、壁一面には、上品な石膏細工が設けられています。角部屋の客間で、大きな窓が2方向にあるという、その発想、この時代には、非常に斬新なものでした。

そのような部屋に入ったことがない客人たちは、2方向ある窓のどちらをみていいか、迷うあまり、例外なくキョロキョロしてしまい、そのうち、なんともいえない当惑した表情になるのです。その表情を見るのが、ベスは好きでした。そこでベスは、静かに言います。「こちらは、ヒル・グレート・チェンバーと呼んでいますのよ。」と。

この部屋で、会食が行われるとき、席は、すべて窓に向けられています。そして、窓と窓の間にある暖炉の上にある石膏彫刻にも、自然に目がいくように、席は配置されるのです。

暖炉の上にある石膏彫刻は、無言のメッセージを強く、客人たちに送ります。

この彫刻は、当時の知識層の人で、知らない人はいない、“願望”が引き、“幸運”が従う台車にのる“忍耐”を描いた絵画(またはタペストリー)の、“忍耐”部分だけを抜粋して、

彫られているのです。そして、この“忍耐”を、軍神マースと、全能の神ゼウスが両側で守っているのです。

この彫刻は、ベスの人生を暗喩しているのです。私は、実力ある古代の神々に守られて、忍耐でここまできたと。

この彫刻を見た後、客人たちは、ただただ、ベスの実力に感服するのでした。

「ベスには、とてもかなわない・・・」と。

ベスのライフストーリーは、次回ご紹介する予定です。お楽しみに!

参考:「Hardwick Old Hall」English Heritage