ヒストリックハウス名:Hardwick

所在地域:イギリス、ダービーシャー

訪問:2019年7月5日、2019年10月25日

Bess of Hardwick, Countess of Shrewsbury (1527-1608)

ベス・オブ・ハードウィック、シュールズベリー伯爵夫人(1527-1608)

ハードウィック ニューホール

今回は、ハードウィックを建てたベスのストーリーです。ハードウィックの館のストーリーは、本サイトの別記事をご覧ください。ハードウィックニューホール、ハードウィックオールドホールの2つの記事があります。

ベスは、ダービーシャーの貧しいジェントリーの家ハードウィックに長女として生まれ、貧しいながらも優しい両親と、年の近い兄弟姉妹と仲良く、平穏な日々を送っていました。

ベスが9歳の、空が晴れ渡る気持ちのよい5月下旬の朝、ハドンホールのヴァーノン家の長男ジョージがロンドンから戻る途中に、いつものように、ハードウィックに寄りました。ジョージは、ハードウィックの子供たちのことを可愛がっていて、ロンドンから、いつもなにかしら、お土産をもってきてくれるのです。ジョージの馬車が近づいてきたことに気が付いたベスは、館の前庭へ走り出て、満面の笑顔で、ジョージを迎えます。

ジョージは、ベスとその兄弟を1人1人抱きしめ、「元気だったかい?」と声をかけます。そして、笑顔で、ベスの母親に挨拶を済ませると、ヘンリー8世の2番目の妻であり、プリンセス・エリザベス(後のエリザベス1世)の母親であるアン・ブリーンが、ロンドン塔で処刑されたと、淡々と話しました。

ベスの母親は、大きなため息をつき、「やっぱりね」と呟きます。「国王様のすることは、私達には、ようわからんが、アンとの結婚に、神のご意志は、感じられなかったものねえ・・・」と、3年余りと短い期間ではありましたが、国王の妻であったアンを呼び捨てにするのでした。

ベスの母親は、常々、ヘンリー8世の最初の妻であるキャサリン・オブ・アラゴンは、すばらしい王妃様だった、スペインから、神のご意志でイングランドへやってきて、イングランドの貧しい人、病める人、親のない子供たちのために、救貧所や孤児院をつくり、どんな貧しい人たちにも、温かく接する女王様だよと、まるでいつも会っている、親しい人のように、語っていたのでした。そのキャサリン王妃を追い出したアンに対して、母親は強い不満を抱いているのでした。

そして、この後も、ジョージが度々、ハードウィックに寄っては、ロンドンの情報を話してくれます。アンを処刑した後、ヘンリー8世は、すぐにジェーン・シーモアと結婚し、翌年に待望の王子エドワード(後のエドワード6世)が生まれますが、ジェーンは産後すぐに死亡してしまいます。

ベスが13歳になった年には、ヘンリー8世は、30歳も年下の15歳のキャサリン・ハワードと結婚、しかし2年後に不貞が発覚し、キャサリンは処刑されます。13歳のベスは、自分より少し年上なだけのキャサリン・ハワードがヘンリー8世と結婚することを聞き、驚くというよりも、なぜか「これは大変なことになる」と、本能的に直感し、背筋にぞっとするような寒さを感じたのでした。

そして、ベスが15歳のとき、キャサリンの処刑を聞き、自分が直感で感じたことを、鮮明に思い出し、ベスは、人間の直感というのは、大事にしなければいけないと、強く思ったのでした。

キャサリン・ハワードが処刑される頃、ベス自身には、結婚話が進んでいました。

ベスは、13歳の頃から、その時代のジェントリー階級の子弟がみなそうだったように、ロンドンにある遠縁の館に、行儀見習いのため、住みこんでいました。遠縁のズーシュ家で、ベスは、レディとしての生活の仕方全般・・・上層階級の1年を通しての過ごし方、館の運営における役割や義務、領民や使用人との関係性、社交の仕方、そしてレディとしての立ち振る舞いなど、考え方から細かなことに至るまで、日常の生活のなかで、身に着けていくのです。

物覚えが早く、一度言われたことは、すぐに習得し、さらにより良い方法や、やり方を提案し、にこやかで礼儀正しいベスを、レディ・ズーシュは、高く評価し、芸術や文学、音楽などを、ベスが学ぶ機会も喜んで与えました。機転がきき、才能豊かなベスは、ヘンリー8世の政情不安な世の中でも、自分の成長を実感できる、楽しい日々を送っていました。しかし、15歳のある日、突如として、結婚の話が持ち上がったのです。

ズーシュ家に同じく、見習いにきている、ベスの遠縁である15歳のロバート・バーロウとの結婚話が、にわかに進んでいることを、レディ・ズーシュから聞かされ、ベスは困惑します。その背景は、ロバートの父親であるバーロウ卿が、重い病にかかっており、先が長くないことから、一人息子のロバートとベスを結婚させ、バーロウ卿の資産の保全を図ろうというものでした。

もし、ロバートが、他の一族の娘と結婚し、病弱のロバートになにかあった場合、資産は、他の一族のものとなってしまう可能性がありますが、ベスは、バーロウ卿の親戚であるため、もしロバートになにかあっても、バーロウ卿の一族のもとに資産は、残るという算段からでした。

バーロウ卿の死期が迫ったため、とるものもとりあえず、という感じで、15歳の二人は、結婚させられ、バーロウ卿は、結婚後、すぐに死亡します。しかし、もともとからだが弱かったロバートは、結婚後、肺の病が悪化し、2年後、17歳で死亡します。

この頃、ヘンリー8世の財政状況が、急激に悪化し、カトリック教会からの資産没収に続き、教区周辺の土地の没収が突然始まります。ヘンリー8世とその側近たちが目をつけた土地、つまり強い領主がいない土地は、なにかしらの理由、言いがかりをつけられ、ある日、突然、国王に没収されるのです。ロバートに遺された資産も例外でなく、ロバートが病にふせっている間に、その土地のほぼ全てが、没収されてしまったのでした。

17歳のベスは、献身的に夫を看病していましたが、ある日、宮廷から届いた手紙には、土地はすべて没収、今住んでいる館も王室所有になるので、借地料を速やかに払うようにという、驚きの内容だったのです。ロバートの死後、ベスは、すぐにレディ・ズーシュに相談し、寡婦年金の訴えを宮廷裁判所に起こします。

18歳のベスは、レディ・ズーシュや周りの人々から知恵を得て、夫に献身的に尽くしたジェントリー階級の寡婦に年金がないような政治は、神の意に反することを、切々と訴えます。美人ではないにせよ、知性と自信にあふれ、18歳の輝くような若さに満ちて、正当な権利を訴える、その姿に、悪意を抱く人は、いませんでした。

ヘンリー8世の宮廷の枢密院メンバーは、皆、年頃の娘があり、ここでこの訴えを退ければ、自分の娘が寡婦になったときに、哀れな末路になることを想像しないメンバーは、いませんでした。黒いベールを被り、涙ながらに訴えるベスの姿に、同情をもたない裁判員はおらず、ベスの寡婦年金は、ロバートが所有していた資産に基づいて、算定されることになり、ベスは、自分の生活をまずは、確保したのでした。

当時、女性が宮廷裁判所に訴えを起こすことは、非常に稀で、ましてや10代の未亡人が

訴えを起こすなど、前代未聞の出来事でした。ここで、ベスの才覚の芽生えを見ることができる、または、才覚がベールの端から現れてきた、といえるでしょう。

そんないじらしいベスの姿を、遠くから見守っていたのが、40歳のウィリアム・キャベンディッシュでした。ウィリアムは、宮廷の財務長官。ヘンリー8世の側近の1人です。宮廷で成功を納めているウィリアムは、数年前に病気がちだった妻に先立たれ、2人の娘はいるものの、跡継ぎとなる息子がおらず、ヘンリー8世の息子がいない焦りにも似て、できれば、優秀な若年の妻と結婚し、頼りになる息子を授かりたいと常々思っていました。

ウィリアムは、ヘンリー8世が苦手な、細々とした財務関連の業務を一手に引き受け、その業務をまた、部下たちに巧く割り振り、国庫を切り盛りしていました。しかし、なかなかの野心家であるものの人心に敏感な人物で、ヘンリー8世がローマ教皇と縁を切った際に行われた、カトリック教会の財産没収の際にも、私腹を肥やすようなことは、一切、行いませんでした。

没収した土地を、ヘンリー8世のとりまきの貴族たちに、ヘンリー8世の意向として配分し、バランスをとるうえで、自然にヘンリー8世がウィリアムに土地を分け与えるような流れになっていることに、周りの人々が気づいたのは、ヘンリー8世の死後のことです。そして、ウィリアムは、ヘンリー8世から土地を与えられると、すぐさまその土地を売却し、得た現金で、当時、あまり人々が注意を向けないダービーシャーの土地を買い続けていました。

そんなやり手のウィリアムのことを、ベスが知らないはずはありません。宮廷で行われた舞踏会で、ウィリアムからダンスを誘われ、19歳のベスは、「この人と結婚するべきだわ」と強い直感を全身で感じます。

ベスは、ダンスのリズムをとるのが上手く、その軽やかな足取りは、自然と男性たちの目を引きます。注目を集める若いベスと踊り、ウィリアムは、久々に心が華やぎ、夢心地な気分になりました。ウィリアムが「ダービーシャーのどんなところがお好きですか?」と問いかけると、笑顔で「この宮廷と同じように・・・日常の嵐です。」とにっこりと即座に答える機知に、ウィリアムは感心し、すっかりベスに心を奪われて、翌日、プロポーズをします。

ベスは、即座にプロポーズをうけ、1547年、2人は、お互いに惹かれ合って、結婚しました。ベス19歳、ウィリアム40歳でした。

~ベス“中編”へ続く~

※このストーリーは、史実に創作を加えています。