ヒストリックハウス名:Bolsover Castle
所在地域:イギリス、ダービーシャー
訪問:2019年10月25日

Margaret Cavendish, Duchess of Newcastle upon Tyne (1623-73)
ニューカースル公爵夫人マーガレット・キャベンディッシュ
ボルズオーバーカースルを完成させたウィリアム・キャベンデイッシュ(1593-1676)については、別記事「ボルズオーバーカースル<ウィリアム編>」でご覧ください。今回はウィリアムの2番目の妻、マーガレットのストーリーです。
マーガレットは、下級貴族の家に生まれましたが、両親の知的志向から家には本が数多くあり、幼少の頃から家庭教師による教育を受けることができました。8人兄弟の末子で、年齢より少し先をいった教育をきょうだいたちと一緒にうけていたことが影響したのか、子供のころから想像力に優れエッセーを書くことが極めて得意。フランス語も堪能になります。
10代後半になると、フランス語の流暢さをかわれてチャールズ1世の妻ヘンリエッタ マリア(フランス出身)の女官に抜擢されます。しかし清教徒革命が起き1644年マーガレットは、ヘンリエッタと共にフランスへ逃れます。フランス宮廷でヘンリエッタに仕えている際、妻に病気で先立たれ王党派で同じくイギリスから逃げてきたウィリアム・キャベンデイッシュと出会います。
ウィリアムは、宮廷で故ヘンリー・オブ・スターリング(チャールズ1世の兄、18歳で病死)と一緒に教育をうけており、フランス語は勿論のことルネッサンスや文芸の知識に親しんでいました。ウィリアムは、30歳年下ながら知的興味が似通うマーガレットに惹かれ、年の差に悩んだもののマーガレットを詠った詩を送り、プロボーズします。
その当時、女性が知的好奇心をもち自然科学や文学に興味をもつことは、どちらかというとはしたないこととされていました。しかし、そんな知的好奇心を隠さないマーガレットは、
“変な人”として扱われ、同世代の女性からも男性からも、距離をおかれていました。そんな中、同じ知的好奇心をもち詩でプロポーズするウィリアムに、マーガレットは心を打たれます。
1645年22歳のマーガレットと52歳のウィリアムは結婚。マーガレットは、ニューカースル侯爵夫人(のちに公爵夫人)となります。
結婚後、マーガレットは、ウィリアムから文芸の知識を学び、またウィリアムがドレサージュ(馬場馬術)を通じて知り合ったフランスの知識人たちと交遊します。そしてヘンリエッタの傍で、イギリスよりはるかに自由な生活を送るフランス女性たちを見て、女性はもっと自由に発想し、自由に意見を発表すべきと確信します。
1649年にチャールズ1世が処刑されたものの共和制は長くは続かず、1660年チャールズ2世の王政復古。マーガレットもウィリアムと共にイギリスに戻り、1668年に女性として初のSF小説「The Blazing World」を発表します。
女性作家が認められず、匿名や男性名で出版する女性作家もいる中、マーガレットは堂々と実名で出版し、世間から批判の目を向けられます。しかし、同時にマーガレットは、広く世の中に知られるようになります。
マーガレットは、自分を自由な女性のアイコンとすることを狙い、奇抜な舞台衣装のようなドレスを常に着て、長いベールをつけ、おつきのものにベールを持たせていました。マーガレットが派手な服装をすることで世間に知られ、そして同時に自分の作品が読まれるきっかけになればよいという、いわばマーケティング戦略だったのです。
マーガレットは、王政復古後の自由奔放な時代の雰囲気を敏感に読み、自分の才能を十分に開花させ、イギリスの女流文学の先駆けとなりました。夫ウィリアム・キャベンデイッシュの伝記をはじめ、自然哲学の本など数多くの著作を残し、後世でも読まれています。世間からは、目立ちたがり屋、淑女としてありえない行動、名ばかりの公爵夫人と酷評ばかりのマーガレットでした。しかし詩人のジョン・ドライデン(1631-1700)らはマーガレットの著作を高く評価します。知識人の中では一定の地位を築いていたマーガレットは1667年に王立協会会合に女性として初めて招待されています。
しかし、ウィリアムの子供たちや館の使用人とは折り合いが悪く、特にウィリアムの次男で相続人ヘンリー・キャベンデイッシュ(1631-91、長男チャールズは1659年に死亡)は、マーガレットが財産目当てでウィリアムを結婚したと思いこんでおり、マーガレットを敵対視していました。
大方の周りの予想に反して、マーガレットは、80歳のウィリアムに先立ち50歳で死亡。ウィリアムは悲嘆にくれます。ウィリアムの死後、マーガレットが受け取る予定だった相続分をウィリアムは全額、当時情熱を傾けていたノッティンガム・カースルの建設につぎこみ、息子チャールズを愕然とさせます。
マーガレットは、ボルズオーバーで、愛し尊敬する夫ウィリアムのドレサージュ(馬場馬術)を見るのが大好きでした。マーガレットは、リトルカースルを背景に美しい馬をのりこなすウィリアムと馬が調和して、華麗なステップをふむ、完成美ともいえる姿を見ていると、このうえない幸せを感じ、自分が世間で非難されていることなど、全くどうでもよい些細なことに思え、そして忘れてしまうのでした。


参考:「Bolsover Castle」English Heritage