ヒストリックハウス名:Tattershall Castle

所在地域:リンカーンシャー(Lincolnshire )

訪問:2026年5月13日

駐車場から教会へつながる小道を通り、教会を過ぎて木立を抜けると、タターシャル・カースルが現れました。「タワー・マンション」という言葉がぴったり。中世に建築された高い建物は、ロンドン塔、ドーバー・カースルなどがありますが、これらはいずれも要塞で、見た目も強固な石造り。一方、タターシャルはレンガ造りで窓もゴシック調、おしゃれなルーフテラスもあります。他を圧倒する威圧感の中に建築美があり、現代の「タワマン」が思い出されます。

Ralph Cromwell, 3rd Baron Cromwell (1393-1456): ラルフ・クロムウェル、第3代クロムウェル男爵

タターシャルにあったマナーハウスをこのタワマンに大増築したのは、ラルフ・クロムウェル。父がヘンリー4世の家臣だったラルフは、王子たちと一緒に宮廷で育ち、ヘンリー5世の家臣となるとアジャンクールの戦い (1415) での働きが認められ王の側近となりました。ヘンリー5世が1422年に死去し、幼児のヘンリー6世が即位すると、ラルフはさらに存在感を強めて国政メンバーとなり、1433年には財務大臣(Lord Treasurer of England )に。国政の中で最重要ポストの財務大臣になったとき、ラルフは40歳でした。

ラルフは1420年代初め頃からタターシャルを10年以上かけて増築しました。タワーはラルフの社会的地位向上に比例して、高くなっていったという感じでしょうか。まだイングランドではレンガ製造の技術が発展途上だった時代、ラルフはオランダからレンガ職人を呼び寄せて、その製造を指揮させました。

ラルフは堀とタワーの間に、二つの門と中庭を造り、訪問客がタワーに近づいていく期待感を高めています。堀から門をくぐり、中庭を抜けるとタワーが眼前に現れるという演出です。私はラルフの演出で現代の「タワマン」を思い出したわけですが、中世の人々は「すごっ!高っ!」と感動したことでしょう。

草が生えているところは堀。堀を渡り建物に入るまでのアプローチを通る時、訪れた人々は建物に圧倒される

クロムウェルは財産をもつ老未亡人をタターシャルに監禁し、ラルフへの財産譲渡を約束する文書に強制的に署名させるなど、犯罪まがいの行為までして蓄財しました。サフォーク伯はラルフへの恨みを晴らすために刺客を雇った、エグゼター侯爵は、何らかの揉め事の末にラルフの土地を差し押さえたという記録があり、ラルフのグレーな面が垣間見えます。しかしラルフは合法的にこれらの問題をかわし63歳で天寿を全うしました。

ラルフは結婚しましたが子供はおらず、タターシャルは姪が相続しました。その後、タターシャルは王室所有、議会所有などを経て17世紀後半から空家になり廃墟に近い状態となっていきましたが、20世紀になり初代カーゾン侯爵、ジョージ・カーゾン(当サイト、ケドルストン・ホール、モンタキュート・ハウス参照)に救われ、現在はナショナル・トラストが管理運営しています。

ラルフの建築への思い入れ、意気込み、こだわり、そして美意識が可視化された15世紀の「タワマン」タターシャル。ラルフのエネルギーは600年を経て、タターシャルの前に立つ私に伝わってきたのでした。

暖炉の周りにあるのはクロムウェルの親族の遠縁の名門貴族の紋章。新進のラルフ、遠縁ブランドを重視?
黄色く塗られている6つの巾着袋は、財務大臣を表すエンブレム。暖炉装飾で地位をアピール。
高い天井を支えるゴシックアーチ
2メートルを超える壁の厚さ、断熱効果は問題無し。ガラスは当時は超高級品
屋上の2階建テラス、珍しい2層の回廊。テラスでのパーティ、急な雨がきても大丈夫。塔に登り遠景を楽しみました

参考: James Wright. Tattershall Castle. National Trust, 2025.